惚気を聞かされる人間の身にもなってほしい。
大きく溜め息を吐いてやっても、直江のべらべらべらべらいうのは止まらない。
「ほぅら、幸村は凄いだろう。天然という言葉は彼奴のためにあるのかもしれん。更には……」
「…………」
「三成は実際難儀な奴だが、内に秘めた熱い義を理解する者が増えてくれれば……」
「…………」
ちっとも、おもしろくない。
直江が友の話をすると、私はきまって「直江と話すのはこんなに楽しくなかったっけ」と思ってしまう。そして、話題によって会話の楽しさは左右されることを実感させられる。
聞くのがいやなら聞き流せば良いのだろうけれど、直江の声はどうしても耳に入ってきてしまうからいやだ。「幸村の武ときたら」
私がつまらなさそうにしていることに少しくらい気が付けよ、などと期待してしまうのは、付き合いが阿呆みたいに長くなってしまったからだろうか。だとすればやっぱり、直江は付き合いの長い私のことに──。
やめだ、やめ。
胸の奥で何かが沸騰するような、ぐずぐず熱くて水っぽい感覚に襲われる。冷たい水があれば、胃の腑一杯に飲み込んで胸を冷ましてしまいたいくらいだ。「三成もたまには素直になる男で」
直江は、私を「友」と言ったことがある。けれど、その「友」と、彼の同志たる「友」には、明らかに隔たりがあった。
付き合いの長さと仲の良さは比例しない。付き合いが短くても、気が合えば仲良くなるし、踏み込めば距離は変動する。
そういうものだ。
だから、直江と誓い合えるほど義の心を抱いてもいないし、根付いた恐怖から未だ抜け出せてもいない私は。
「私はほんとうに素晴らしい友を得ることが出来たな!」
私は。
「……よかったね」
「ああ!」
平静を装って出した声。
迷うことなく頷いた直江は、心の底から嬉しそうだった。
それにまた温度が増す。装ったのに気付いてくれないんだ、とか、嬉しそうにしやがって、とか。
ああ、直江から友の話を聞くときに思うことは、もうひとつあった。
──「私、こんなに綺麗じゃなかったんだ」。
「彼らと共に、戦無き世を作らねば」
誇らしげで堂々とした、直江の言葉が憎らしい。
この人は、こんなに綺麗だから。
彼の友は、そんなに綺麗だから。
穢い私は、これ以上並ぶことは出来ないのだと、頷くことしか出来なくなる。
何度、何ヶ月、何年、隣に座って菓子皿を共にしても、それ以上には届かない。
彼の喜びを、清潔に祝福することもままならなければ、話にならない。
「ふたりとも心強い義戦士だからな、我らの義があれば必ず成し遂げられよう。
平和な世で名前と食う菓子は、きっと格別だろうな!」
しかも、よりにもよって、今、そんなことを言う。
なんでだろう、いつの間に、私は、こんなに直江を求めるようになってしまったのだろう。毎回そうだった、いつの間にかそうだった。じゃあ、いつのって、いつなんだ。
たくさんたくさん、答えの出ない問いが湧き上がっている。答えの出ない問いって、こんなに重たいものだったっけ、とか。
嫌いになれたら良かった。
嫌いにさせてくれたら良かった。
そんな風に、私に情などかけないでくれたら良かった。
「……直江って、ほんと、義と愛の人だよね」
「当然だ! ……うむ、お前にそう言ってもらえるのは嬉しいな!」
嘘つき。私の言葉よりずっと嬉しいことがあるくせに。
直江のことを批判する言葉しか出てこない、穢い私が大嫌いだ。直江が何か言うたびに、自分は綺麗じゃない、この男には相応しくない、と眼前に突きつけられてしまう。
「義とは、『大切なものを守りたい』と思う……」
いつかの直江の声が、耳に蘇る。
直江のせいにしてばっかりの私には、何かを、誰かを、「守る」ことなんてきっと無理だ。穢いのだ。
しかも、私は馬鹿で、余計なことをしてしまう。直江の台詞を、口に出していたらしかった。
彼が、そうだ、義とは、と復唱する。
その視線は、天を向いていた。
「だから私は、友を守りたい」
────じゃあ、お前は誰が守るんだ。
そう思うことだけは出来るのに、私にはきっと意味が無い。
title by レイラの初恋 170531