016
002の続き
「うわっ! 髪ぐちゃぐちゃになる!」
「あとで直してやるよ」
「そういう問題じゃ……あるかもしれないけど!」
「不死」と「不運」が、仲睦まじく戯れている。
ニコがユニオンの廊下を通りすがったとき、見えたのはその様子だった。
普段なら、今のやりとりに特別思うことなどないのだが──。
思いついた。
「……なるほど、使えるかもしれねぇな」
頭に浮かぶのは、飼い猫になった野良猫のような、己の部下。
それから、報酬系の刺激、オペラント条件付けによる行動の強化。
要するに、飴をくれて能率を上げてやろうと、ニコは考えたのである。
あのボケの場合、飴となるのは。
「Dr.ニコ! 件のものをまとめておきました!」
「ああ、待ちくたびれたぜ」
「! 申し訳ありません、遅かったですか!?」
「いや、予測通りの時間に来たよ、お前は」
思いついてから、試す機会を待っていただけだ。ようやく訪れた名前に、ニコは口に出さず答えた。不思議そうな顔へ向かって、さっさと報告しろと促す。アナログ媒体での情報のやりとりをすることは少ないが、物によってはそうせざるを得なかったり、順序に組み込まなければならなかったりする場合もある。それが億劫なのも事実で、名前の報告は早々に済ませてしまいたかった。
耳からの情報と、渡された紙面の情報を、早急に整理していく。
終わりに近付く。
「──以上になります!」
名前が、そう言い切った。
この瞬間を、待っていた。
「そうか」
「──────ッ!!??」
ニコは、名前の頭に手を置いた。ぽん、と、ほとんど一瞬に近い間だけ。
それでも、名前は目を見開いて固まった。
「終わったなら戻れ」
「──は、はい!
了解、Dr.ニコ!」
名前が転びそうにながら踵を返し、持ち場へと駆けて行く。
その背を横目に、ニコはマグカップを傾ける。──飴玉を溶かしたように甘い気がする。
名前の仕事の能率は、驚くほど上がった。PCのタイピング音と指の動きが数秒ズレている。
ニコはちょっと引いた。