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 オリアスが職員寮に帰宅すると、玄関にダリが立っていた。

「おかえりなさい、オリアス先生」
「ドーモ、ただいま帰りました」
「いやあ、オリアス先生も隅に置けませんねえ」
「おや、ダリ先生ともあろう方が、俺の星が羨ましいんですか?」
「またまた、すっとぼけなくてもいいんですよ」

 やべえ。
 オリアスの心中は、その言葉で溢れかえった。けれど、悟られぬよう、笑みは絶やさない。
 ひと息に自室まで駆けていこうと試みる、その腕を掴まれた。

「恋人とのおでかけは楽しかったですか?」
「えっ、オリアス先生に恋人!?」
「マジで!?」
「…………はぁ~~~~…………」

 耳聡い教師たちの声が、共用スペースから聞こえてくる。どたどたと大勢の足音がした。
 まずいことをした。誰が、どこで見たのかまではわからない。人の多いゲームセンターか、その後に喫茶店へ行ったときか、それ以外か。全部、あり得そうな気がしてくる。特に喫茶店などは、誰に見つかるかなど考えず、名前を落ち着かせるのが先だからと、近場を選んだのだ。時間を外したとはいえ、あの周辺は人が多い。
 好奇心に満ち満ちた瞳ばかりを向けられ、オリアスは“占星”をオンにする。

「目撃した先生の話を聞くに、ゲームセンターに居たとか。で、恋人さんは暗い顔をしていたそうですけど、オリアス先生、何をしたんですか?」
「えっ、もしかして幻滅されて振られちゃった!?」
「『まだ』恋人ではないです。暗い顔してたのは俺のせいじゃありません、あの子の問題です。以上。夕飯は外で食べてきます!」

 捕まれた腕を、「たまたま」うまく引き抜く。振り返り、全速力で玄関を駆け抜けた。飛行可能の標識が横目に入る。
 ともかく、今なら逃げおおせるだろう。他の教師たちだって、楽しさを長く味わうために引き際を選ぶはずである。

「は~~~~、もう………………」

 マジカルストリートはずれの公園は、夕飯どきなのもあってか、子どもたちなどの姿は無い。疲れた顔の大人がベンチに寄り掛かっているくらいである。
 それとはまた別のベンチに、オリアスも座る。今日は夜の会議も無かったはずだから、教師たちの寝静まっている朝方に帰ろう。
 自販機で水を買ってきて、一息つく。
 と、ポケットから電子音が聞こえてきた。
 まさか先生方じゃないだろうな。警戒しながら取り出せば、画面に表示されていたのは。
 
『オズワールさん、今日はありがとうございました。変なことをしたり、言ったりしてしまって、すみません』
「名前……」

 思わず、口から零れる。そして、口端が勝手に持ち上がった。
 なんだか、癒された。逃走も成功したことだし、“占星”を切る。ス魔ホに指を滑らせた。
 
『いや、気にしてないよ。今は家に着いたとこ?』
『はい。着きました』

 おや。「はい」で終わらなかった。
 それで、昼間の件を思い出す。「仲良くなるにはどうしたらいいですか」と、泣きそうな声で聞いてくれたことを。
 笑みが深まる。なんてかわいい。
 ──あの子は、俺が「欲しい」んだ。
 確信を、もう一度。あの時の口振りは、やはりそういうことだった。
 仲良くなりたい、という。それは、ただ共に遊びに行くだとか、魔インや電話をするだとか、そういうことではなく。そこには収まらない、もっと先の。
 ──ケド、自分で気付くまで、教えてあげない。
 だって、やっと同じテーブルについてくれた。己と同じ、相手のすべてに一喜一憂してしまう、惚れたほうが負けのゲームに参加してくれたのだ。
 それに、最初から全部答えを教えてしまうのは、勿体無い。ヒントはあげてもいいけれど、答えの丸写しでは、今までと変わらない。流されるだけの名前のままになってしまう。
 ──もっと、俺を欲しがって。自分の「欲」に気付いて。
 ──そのときは、ちゃんと答え合わせをするから。
 笑みが消えない。

『次、遊びに行くならどこがいいとかある? ゲーセン再チャレンジしよっか?』

 送ったメッセージに、すぐ既読の印がつく。しかし、返信はなかなか来ない。
 考えてるんだろうな、俺と仲良くなるにはそれでいいのか、他にどうしたらいいのか。
 目に浮かぶようで、背筋がぞくぞくする。オリアスの縦長の瞳孔は開いて、ぎらぎらと輝いていた。

『オズワールさんの好きな場所はどこですか』
『ん~、実は自分の部屋が好きだけど。外出るなら、やっぱりゲームショップかな。ゲーセンも好き。あとは本屋とか? ボドゲやTRPGのルルブがある店だとなおよし!』

 ここで、また間が空く。一生懸命なんだろうな、見たいな、いつか見せてもらおう。気持ちが逸ってしまう。
 ──仕方無いでしょ。あんなに表情も感情も鈍かった子が、俺のことでそういうの全部ぐちゃぐちゃにしてるんだから。
 愛しさに加えて、楽しさや面白さも湧いてくる。なにせ悪魔だ。そういう意味では、オリアスをからかう気満々の教師たちといい勝負なのである。
 
『じゃあ、ゲーセンにしましょうか』
『オッケー。他は?』

 困らせる、悩ませるのをわかっているから、問いかけで追撃してしまう。しんどいだろうなあ、あのときすっごく戸惑ってたもの。だけど、まだまだ振り回したい。
 次はどう仕掛けてくるのかが楽しみで、画面から目を逸せない。
 ぽこり、動いたチャット欄に視線で食らいつく。

『また、手を握ってもらってもいいですか』
「──、…………」
『今日手を握ってもらったの、嬉しかったんです』
『いいよ、手繋いで歩こう!』

 ──う~ん、天然てか、無知ゆえの攻撃がなかなか強力!
 してやられたな、と胸中で呟く。
 ──いいんだけどさ。強敵を倒すのも、ゲームの醍醐味だから。
 どんどん面白くなってくる。勝利を勝ち取ったときの喜びはいかほどか、想像するだけで喉が鳴った。
 はやく、その甘露を味わいたい。
 ──だから、名前。
 ──きっと、ちゃーんと俺に負けてちょうだいね。

くす玉みたいなα星

title by alkalism 220616