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「やあ、今日も飲んだくれてるね!」
「…………誰のせいだと……」
「んー? それは君自身の問題だと思うけど?」
「………………わかってるよ、『ウェンティ』…………」

 本当は「バルバトス」と呼びたいのを我慢して、このエンジェルズシェアの空気に従った。蒲公英酒を片手に、私のテーブルに相席しに来た神様は、やれやれ、と肩を竦める。

「君も懲りないねえ」
「あなたが頷いてくれたら、それで良い話だよ」
「うーん、それはちょっと難しいかなー」

 言って、ウェンティはグラスを煽る。
 ──この神に心を奪われて、もう何百年経っただろう。
 生まれた頃合いはきっとほとんど変わらず、そして私は人間の姿を真似た精霊のまま、ここに顕現し続けている。その原動力は、間違いなく、この神への執着だった。

「窮屈じゃないのー? 同じ奴のことばっかり追いかけててさ」
「そうさせている本人が言うの?」
「あっ、ほら! そういうとこだよ、僕のせいだって思うところ!」

 だから僕は君の想いに応えられないんだ。
 もう何度聞いたかわからない言葉が耳を打つ。
 わかっているのだ。
 私の想いは重くて、自由の神に受け入れられてしまったが最後、その自由を奪いたくなってしまう。
 この神にお願いひとつされてしまえば、私自身の自由を失うとしても絶対に叶えたくなってしまう。
 ──それは、風神の望むところではない。
 わかってはいるけれど。

「せめて眷属にしてくれたって良いのに……」
「だーめ! 君は僕のために自分を犠牲にしちゃうでしょー? そんなところ、僕は見たくないな」
「中途半端に優しくしないで……」
「ううん、今のは僕が僕のために言っただけだもの。
 こうして、やけ酒が趣味な昔馴染みとお酒を飲むのもね」

 バルバトスが笑う。
 ああ、その笑顔のためなら、本当になんだってやれるのに。
 その笑顔を、全てを、くれたなら!



230321 約30の嘘