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名前は、込み入った成り行きでメギド72に所属している古メギドで、メギドラルでの役職は書記官のような存在だった。込み入った諸々、雑に表現すれば「守秘義務」から、メギド72に流せるメギドラル側の情報は限られているが、それでも良いとソロモン王に受け入れられた者である。
さて。
名前からすると「近年」のメギドラルは、「芸術」を軽んじ、更に「最近」はそれに反発する若者も出てきた、という認識で、ビルドバロックすら知る名前としては、最近は良い傾向にある、と思っている。
特にお気に入りは、フルーレティとロキだ。
書記官である名前にとって、記録ではなく感情を揺さぶる物語を綴るフルーレティはある種の憧れで、そしてロキは。
「ふっふふっふん、ふっふふっふん」
「名前がまた鼻歌してる」
「ホントにロキの歌が好きねえ」
──単純に、「ファン」だった。
ロキが軍団入りすることになったあの事件の際、名前もソロモン一行に同行していた。そのため、当然、名前はロキの歌を聴くことになった。
それで、一発だった。
一目、いいや、一聴きで、名前はロキの歌に惚れ込んでしまった。
音楽メギドの大半は大層嫉妬したものである。しかし、惚れたものはどうしようもない。名前は意識的にも無意識的にも、ロキの歌をよく口ずさむようになったし、ロキがアジトで歌うことがあれば、その規模がイベントでも練習でも、駆け付けるようになった。今や、ロキのおっかけであったヴィータたちと話が合ってしまうことだろう。
違う点があるとすれば、
「あ、ロキさん。おかえりなさい。何もありませんでしたか?」
「たくさんあった」
「そうですか、それは安心です」
ロキの言葉が本人の意志と正反対のものになってしまうことを、よく理解していることだろう。
性格など生易しいものではなく、「そういうもの」としてロキに強制されてしまう反対言葉。歌によってだけ逃れられる、恨めしい縛り。
「あー♪ あー♪ ……ありがとな~♪」
「いえいえ。今日も綺麗な歌声ですね」
言いながら、名前は、ポータル側からやってきたロキに歩み寄る。アジトは広く、かつ、名前はよく図書館に籠っているので、こうしてわかりやすく鉢合わせることができるのは嬉しかった。そういうことがあるたび、名前はロキのあとを着いてまわる。迷惑かと尋ねたこともあるが、間髪入れず「迷惑だ!」と返ってきたので、甘えることにしていた。
「今回は、外では何がありましたか?」
「……歌ってほしくねえ奴が居たから、歌わなかった」
「そうなんですか! 私も聴きたかったです」
「……だったら、今から歌わねえ」
「え、良いんですか?」
「良くねえ。……部屋でもいいか♪」
「わあ、特等席ですね! ぜひ!」
ロキが頷く。名前の見えないところでは拳を作っていた。
それを目撃するメギドは微笑ましそうにしたり、バラム料理を見たときのような顔をしたりする。
──惚れているのは、名前だけではないのである。