020
「嫉妬しちゃうのは仕方ないけど、薄情だと思わない?」
ベッドの上、アスモデウスはぷんぷん怒っていた。行為の痕跡が残る裸体を惜しげもなく晒し、投げ出した手にはD.D.D.が握られている。
私は頬杖をつきながら、はは、と笑って返した。
「もう、名前。笑わないでよ」
「そうは言ってもなあ。まあ、ほら、怒るアスモも可愛くて美しいよ」
「それは当然でしょ!」
胸を張るアスモデウスは、彼が自負するとおり、私が言ってやったとおり、やはり美しかった。
その美に惹かれ、そして彼に「きみも素敵だね、ぼくには及ばないけど!」と認められ、関係を持つ悪魔や魔女は多数居る。
私もそうだった。クラブで出会った彼と連絡先を交換して、アスモデウスの気分のままに、幾度も夜を共にした。
「例の奴も勿体無いことをしたよ」
ただ、今回は少し珍しいことに、私は別の奴の代打として呼ばれた。アスモデウスが言うには、お誘いの返事はつれないどころか、「裏切り者め」から始まる文句が連なっていたらしい。
「ほんっと。いくら美しくても、美の権化のぼくには敵うわけないのにね。
でも、名前と会えたのは良かったかも。このホテルもサイコー」
それを受けての認識は、相変わらずずれていた。
彼は、自分の美に自信がある。だから、今回の罵倒を含めた何もかも、己への糾弾はすべて、美しさへの嫉妬だと思っている。そして、当然、すべてがすべて、アスモデウスの考えるとおりなわけではないのだ。
例の奴だって、そうだっただろう。
「でも、本当に良いのか? 今日は帰らなくて」
「もう、つれないこと言わないでよ。連絡も入れてるし、朝までもーっと楽しもう?」
衣擦れの音。シーツを背中に引っ掛けたアスモデウスが、私に覆いかぶさった。
頬を滑る手。こちらから触るときは丁重に慎重にしなければ気分を害してしまうのに、自分からは不躾なぐらいに触れてくる。なめらかな指先。目が細まった。
「留学生への連絡は?」
「…………」
手が離れていく。
隣に座り込んだアスモデウスが、唇を尖らせた。私も起き上がって、高さを合わせる。
「……名前、もしかして」
「それなりに付き合い長いからな。見てりゃわかる」
「……ふーん」
居心地悪そうに下げられたアスモデウスの視線が、すべてを物語っていた。ちょっとだけ縮こまるような座り方が、いつでも自信たっぷりの彼には珍しい。もしかすると、私や、彼の兄弟、そして、──留学生ぐらいしか、見られないかもしれない。
「……名前は、おかしいと思う?
ぼくが、ぼく以外の……」
「さあな、自分で決めろよ」
吐こうとした弱音は、先手で封じる。これ以上を聞きたくはなかったし、聞いて良いのは私じゃないと思った。
「ただ、アスモにとって、アスモが一番で唯一だったからこそ成立したものがあったことには、気付いていた方が良いかもな」
「なにそれ。遠回しすぎて意味わかんないし、突き放したくせに注文多すぎ」
アスモデウスが、機嫌を損ねて顔を背ける。それを良いことに、私も肩を竦めてやった。
嫉妬するのは仕方なくても、薄情者と言われないようにしたいところだ。