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05ぐらいの時間軸
 
 
 目の前にあった箱が、初めから無かったかのように消える。
 箱があったはずのテーブルの上を見て、カフカさんは笑った。

「能力を使うのも、ずいぶんうまくなったわね」
「カフカさんの教えが良いからです」
「褒めても何も出ないわよ?」

 隣に佇む彼女は、いつものように余裕綽々だ。すごいことだ。動揺しないということは、どんな局面でも役に立つだろう。私はまだまだ未熟者だから、彼女の冷静さが羨ましい。私がもっと強くなれれば、刃さんの役に立つことができるだろうに。
 考えていると、カフカさんに瞳を覗き込まれる。吸い込まれそうなほどの彼女の紅玉の色の深さに、心臓がどくりと跳ねた。

「刃ちゃんのこと、ずいぶん気に入っているのね」
「…………そう、ですね」

 考えていたことを見透かされて、びっくりする。この余裕の無さが私の欠点だ。

「刷り込みみたいなものかしら? 妬けちゃうわ」
「ど、どちらに」
「どっちにもよ、……って言ったら、どう?」
「…………わ、わかりません……」
「そう」

 カフカさんの目が、すうっと細められる。でも、機嫌を損ねたわけじゃないらしい。安堵する。
 彼女は面白そうに話すだけだ。

「刃ちゃんのどこを気に入ってるの?」
「えっ、え?」
「こういう話、普段できる相手が居ないんだもの。気になっちゃうわ」
「こういう話とは…………」

 どういう話のことだろう。不思議だけれど、カフカさんが話を聞きたいというのなら、まあ、話すのも良いかもしれない。刃さんに不利になるようなことじゃないだろうし。私にも、他の人と刃さんについて話す機会は、早々無いし。

「……これを言って良いのかわからないんですけど」
「刃ちゃんには秘密にしてあげるわ」
「……不死身だって聞いたときに、なんか、気にかかるようになっちゃって。
 なんか、不死身だっていうことを、こう……恐ろしいことだなって、すごく思って。どうにかしてあげられないのかな、みたいな。自分のことじゃないのに、自分のことみたいに思えてしまって」
「あら、まあ」
「……だから、最初は同情だったのかもしれないです。……それでも、そこから気になったのは事実で、気になり始めたら、面倒見てくれる人だな真面目だなってしみじみ思うようになったりとか……」
「そうなの」

 カフカさんは相槌を打ってばかりだ。わかっていたことだが、カフカさんは自分の話をする気は一切無いらしい。それで正しいと思う。私は「居候」ではあれど、正式な星核ハンターではない。情報を落とさないに越したことはないだろう。お目付け役? 世話係? の刃さんは例外として。
 私の話を聞き終えたカフカさんは、「じゃあ休憩、終わりね」と言う。そこで、そうかこれは休憩だったのか、と気付いた。そして、内心で少し辟易とする。カフカさんは「現実改変者」としての私の能力の使い方を指導してくれる──彼女の言霊に近い能力だし、彼女の言霊で縛りを設ければ、能力を扱いきれていない私が取返しのつかない改変をしてしまわずに済むから──けれど、割とスパルタなのだ。そのくらい必死に覚えないといけないのだろうけれど。

「あまり嫌そうな顔をしないで。私が思うに、日常生活でも便利な力よ、『変数』ちゃん」
「……たとえば?」
「刃ちゃんにドキドキしちゃったとき、脈拍を正常に『改変』するとか」
「なっ、なんですかそれ……」

 私は頭を抱えた。私は刃さんにそんな感情を向けているのだろうか。
 私にも「わからない」っていうのに。

静謐のまなこ

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