08

 私を見つめる刃さんに、ありとあらゆる意味で固唾を飲む。

「己が不死身であることには気付いているか」

 それで言われたことがこれだったので、私は拍子抜けした。

「気付いても何も、ずっと前からそういう話でしたよね?」
「違う」
「え?」

 そして、その抜けたのが間違いだと知った。

「お前のことだ」
「…………え?」

 発した声は、か細くなってしまった。
 刃さんの台詞を繋げるに、私は、不死身である、らしい。刃さんと同じく。
 そこに衝撃を受ける、以上に。
 ──忘れていたことを、思い出した。

「そういえば私、刃さんが居ないうちに死のうとして、失敗して、『現実改変』で無かったことにしたんでした」
「なに?」

 刃さんの眉根が寄る。腹にある彼の手がさらに強く抱き寄せてきて、みぞおちが苦しい。はやく詳しいことを話さなければ。無かったことにした記憶を、どうにかこうにか引っ張り出してくる。
 
「刃さんの不死身と、私の『現実改変』のことを、刃さんに教えてもらう前です。
 私はなんにもできない役立たずなのに面倒見てもらってるんだー、私が『変数』だからってだけで僕自身は星核ハンターさんには不要なんだろうになー、と思ったら落ち込んできて」
「……」
「それで、セーフハウスのケーブルで首を。……したのにずーっと意識があって、痛いし苦しいし死ねる気配が無くて怖くって、『馬鹿をやったなあ、記憶ごと無かったことになれば良いのに』って」
「…………」
「たぶん、『馬鹿をやったことは思い出すべきときに思い出した方が教訓になる』っていうのもうっすら思ってたかな? だから、今、思い出したんでしょうね。
 ……あの、刃さん。お腹痛いし目が怖いです。私が話せることは全部話しましたよ」

 言っても、腹を圧迫し続ける腕の力は緩むことはない。中身が出そう的な意味で、ちょっと気持ち悪くなってくる。かっぴらかれた瞳孔でこちらを見つめられるのもなかなか怖い。顔立ちが整っているなー、という現実逃避で紛らわせたくなるぐらいには。
 無言を貫く刃さんの名を、何度か呼んでみる。鬱陶しそうな眉の顰め方をされて、そこで私も黙る。考えを邪魔しちゃいけない。
 やがて刃さんは、私の身体から腕を解いた。
 お、と思ったのは一瞬。今度は世界が半回転。ぐるっと回った視界に、先ほどとは別の気持ち悪さを感じた。そして、やっぱりそれも一瞬。吐き気を「改変」した後には、刃さんの身体を私がまたぐようにして座っている──座らされたことへの驚愕が残った。

「刃さん、これは、一体?」
「名前」

 呼ばれて、息が詰まる。もう一度かち合わせた視線は、やはり射抜くようだった。

「俺が彼岸に渡るとき、お前も来い」
「…………え」
「お前が語ったそれのときは、そう『改変』されなかったようだが、本来なら、お前はお前も殺せるらしい。自分自身を『死体』にする、という方法で」
「な、……」

 るほど、と言葉を続ける。
 刃さんは、口を休める気配が無い。
 ただただ私を見て、言う。
 
「お前が来るまで、彼岸の手前で待っている」

 ──不思議と、嫌な気持ちはしなかった。
 むしろ、自分のやれることが無くなったあと、刃さんを殺したあと、どうすれば良いのかがわかって、良かった、の気持ちが先行した。
 何より。
 一緒に来いと言われたのは、「俺の死」ではなくなったあとの、「名前」だ。
 他の誰でもない刃さんに、「名前」を求められていることが、嬉しかった。

「……わかりました。あまりお待たせしないようにいきますね」
「そうしろ。俺とて、待たされ続けるのはもう飽いた」
「……ふふ」
「何がおかしい」

 思わず零れた笑みに、訝しげな視線を送られる。私は首を横に振った。

「先に行っている、とは言わないんだと思って」
「…………」

 余計なことを言ったかもしれないけれど、言いたかった。嬉しいことは口に出してしまう。刃さんは目を伏せて、小さく息を吐く。反論は無いということだろう。
 そっと、両手を彼の身体に回す。拒まれない。
 ゆっくり、身体を彼の方へ倒す。拒まれず、背中を引き寄せられる。

「……じゃあ、ずうっと一緒ですよ、刃さん」

 試し半分に言った言葉には首肯を返されて、色々と重いだろうに、波乱万丈だった彼にとっては、最早軽いくらいなのかもしれないな、などと考えてしまった。

今は離さないで

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