07
「来い、俺の死よ」
「……はーい」
セーフハウスに居るときの刃さんの様子が、変になった。不躾な物言いだが、実際、変なのだ。例を挙げるなら、まさに今。
ソファに座った刃さんの足の間に来るよう、呼ばれている。
一体なんだっていうんだ。どういう意味があってそうするんだ。不思議ではあるけれど、一瞬だけ心臓が跳ねては平静にかき消されていくけれど、刃さんにお世話になっている身として、否やは無い。すとん、と座ると、左腕を腹に回して、右腕で、私の右手首を掴んでくる。明らかに脈をとっている動きに、心臓を抑えていてよかった、と安堵する。これでばくばく言っているままだったら、何故なのか弁解しなければならなかったかもしれない。「現実改変」様様だ。
とはいえ、何故なのか教えてくれないといけないのは、刃さんの方ではないか、という気持ちもある。
当然の疑問だろう。なんていうか、刃さんって、人とべたべたするのは嫌いそうだ。精神的にも、物理的にも。なのにこの体勢である。こうなると、刃さんは大した用事が無い限り、私を両手で抱き締めて放さなくなる。お腹が鳴る頃にやっと解放されるかも、というぐらいだ。その間、私は暇なので、銀狼さんに教えてもらったゲームをやったり、小説を読んだりして待つ。
──不安なのかな、と思う。
あの刃さんが不安だなんて、とも思うけれど、でも。
私は、「俺の死」だ。その呼び方と認識に思うことがあったとしても、これは覆らない。長年、不死身の身に嫌気が刺しているどころの話ではない刃さんが、そんな存在を逃がすだろうか。いや、逃がさないだろう。逃がしてしまえば、次に死の希望が見えるのはいつになるのかわからないのだから。
刃さんは、そもそもが不安定だ。何かを悔やむようであったり、復讐を望んでいるようであったりしながらも、しかし、死への渇望が一番強い、というような。過去の清算は生きていなければできないはずなのに、傷を負えば、まだ死ねないのかと落胆する。つまり、とにかく、「死」が最優先なのだ、彼は。だから、それだけ、私への執着も強い。
「刃さん」
「…………」
「私、きっと刃さんを殺しますからね」
そう言ってしまうのも、当然のことだった。これほどのひとを放っておくなんて、私にはとうていできない。望まれ方に問題はあれど、けれどこの人にとっては、それが正解なのだ。いくら倫理を説いたって、彼の苦痛や苦悩の前では、そんなものは無力だ。
たとえ望まれているのが私それ自体ではなく、この能力であるのだとしても、私が望まれて、私にしかできないことなのなら、ちゃんと責務を果たそう。最近は、そう、腹も決まりかかっている。
──刃さんを殺したあとのことは、考えたくもないから、考えていないけれど。
腹に回った両腕に、そっと右手を添える。彼の表情は見えないけれど、見えないままで良かった。見られないままで良かった。
私が怖がっていちゃ、刃さんもさっきの言葉を──、
「っいたあ!?」
「……」
「…………えっ!? えっ?
な、なんで噛んだんですか?」
首筋に走った痛み。さすがに振り向くと、刃さんは素知らぬ顔──ではない。いつかのように、真っ直ぐにこちらを見ていた。何か話すことがあるんだ、と気付いて、抗議を発していた口を閉じ、清聴の姿勢に入る。
彼は、ゆっくりと口を開いた。