04

 刃さんに着いてまわるのが、私の任務だ。
 けれど最近は、逆なんじゃないかと思うことがある。

「……あの、あの屋台気になります」
「わかった」

 変装をした刃さんが頷く。外を出歩くとき、逐一了承を得るのはもう馴れっこだ。
 ただ、最近の変化として。
 彼と手を繋ぐようになった。
 これには紆余曲折があって、はじめ、彼は私の首根っこを掴むようになった。でも、そうしているとじろじろと観衆から視線を送られるのだ。お尋ね者として、無駄な注目は避けたくて、けれど──多分、私がどこかに行かないようにしたい刃さんとの短いやりとりの結果、手を繋ぐようになった。首根っこを掴む彼の手を、私が自分の手に絡めさせただけの行為だったけれど、彼にはちゃんと伝わったし、数秒のち納得したときには、躊躇わずに握り返してくれた。
 「でも、戦闘になったら、片手を塞がれているのは邪魔ですよね」とも聞いた。その返事は、「お前と居る場合、逃走が最優先だ。担ぐのにはそう差しさわりはない。むしろ近くに居た方が担ぎやすい」とのことだった。刃さんに担がれる自分の姿を想像したものの、まあ、刃さんが良いなら良いんだろう、というのが私の結論だ。以前、銀狼さんに、「刃に甘くない?」と言われた通りなのかもしれない。自分でもなんでだかはわからないけれど、もし、私が世話になることになったのが刃さん以外のハンターだったら、あんまり言うことを聞かなかったり、言葉を疑ったりしていた気がする。ある意味では刃さんの人徳なのかもしれない。これを本人や、ハンターの誰かに言ったら、微妙な反応をされそうだけど。カフカさんが意味深に笑うくらいだろうか。
 ──と、お気楽に構えていられたのはそのときだけで。
 今回は星核のある星に来ていた。なにせ、私がお世話になっているのは、星核ハンターなので。しかも、エリオさんが言うに、今回は私も星に降りるべきだということで、ここに居る。
 私はまだ、裂界造物なんて存在を見たことが無かったし、傷を負う刃さんを見たことはあっても、戦う姿は見たことがなかった。だから。

「ちょっ、刃さん、手首……っ」

 刃さんが敵に先制攻撃をしかける際、自分の手首ごと切り裂くのを見てしまった。彼はこちらに目線もくれず、そのまま戦い始め、あっという間に勝利をおさめてしまう。
 私はもう何テンポも遅れていて、刃さんが剣をしまったところで、ようやく、彼の傷を心配しに駆け寄った。彼は鬱陶しそうにこちらを見る。そうだろう。刃さんにとっては、どんな怪我でも、自分を死に至らしめてくれるかもしれないもの、歓迎すべきもので、忌避するものではない。彼が忌まわしく思うのは、どんな怪我をしても死ぬことのできない事実だ。
 とはいえ、私だって、驚くものは驚くのだ。自分の身を顧みない戦い方をするなんて。強そうなのに傷が絶えないのはこういうことか、と知ってしまった。
 その危うさが、どうにも。
 私の存在意義が揺らぐように感じられてしまって。
 刃さんが死んでしまわないか心配になってしまって。
 私は、刃さんの傷ついた片手を両手で握り、自分の額に押し当てた。

「──私が殺すまでは、死んじゃだめですよ」

 は、と息が震える。身勝手な物言いだとわかっていたから。

「────わかっている。俺の死よ」

 私を「俺の死」と呼ぶ彼に、存在意義の欠けた「私」そのものも見てほしいと、矛盾を抱えていることも含めて。

吐息のみが熱い

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