03

 ──自分に一体何ができるのかと思っていた。
 その答えが、これだなんて。
 さびれた家でごろりとしながら、数日前の刃さんの言葉を考えている。天井は宇宙船と違ったコンクリ固めで、なんだか見慣れない。星核ハンターのセーフハウスのひとつらしいけれど、飾り気のないボロ屋は気持ちの落ち込みに拍車がかかるようだった。
 刃さん、正確にはエリオさんは、私を「現実改変者」だと言った。その意味は説明されていない。でも、言葉の響きから意味を考えることはできる。

「……そんな大それたこと、私ができるのかな」

 呟く。
 けれど、刃さんの怪我を治してしまった一件からして、少なくともそのくらいの力はあるらしい。怪我を治すだけでも大変なことだ。それ以上があるかもしれないなんて。
 でも、今はそのときでは無いとも言っていた。救いの言葉だ。今のうちは、刃さんを殺さずに済むらしいから。
 刃さんを、殺したくはない。
 付き合いはまだ短いけれど、知り合いではあるし、彼に着いてまわるように言われている私は、彼の人となりも少しは見ている。そんな人を殺すなんで、どうやったらできるというのか。
 でも、彼が自分の死を望んでいるらしいのは、事実だ。
 だから、私にとっての希望の言葉は、彼に失望を与えている。一刻も早く死ねたらと、そう願っているのだ、きっと。
 ──刃さんに恩返しをするなら。
 彼は不愛想だけれど、記憶の無い私に物事を教えてくれた。「じん」や「せいかくハンター」がどういう字を書くのかとか、些細なことも。だから、彼に報いるなら、私は彼をいつか殺すべきなのだ。
 エリオさんの言うことが正しくて、「現実改変者」の意味が私の考えた通りなら、おそらく。
 刃さんの死を、私が心から望めば、叶うのだ。
 
「……やれるかな」

 不死身の身という運命に、同情する気持ちもある。そんな彼の苦しみを除くことが、私にしかできないことなのなら。
 それはそれで、魅力的な気がした。
 人を殺すことに自己の肯定を見出すなんて、良くないことかもしれない。でも、この人殺しは人助けにあたるとも言える。それも、世話になった人への恩返しとして。彼を殺せるようになった頃には、今以上の恩を積み重ねているだろうとも思う。だったら、尚更。
 私は、彼のために、私のために、刃さんを殺すべきだ。
 問題は、彼を殺すタイミングだ。
 刃さんを今殺せないのは、私の覚悟の決まり方と、星核ハンターとしての仕事が刃さんには残っているらしいこと、それから復讐を完遂していないことが理由だ。だから、刃さんのやることが終わるまでに、私は人を殺す、刃さんを殺す覚悟を決めなければならない。

「……おかえりなさい、刃さん」
「…………ああ」

 ただいまも言ってくれないけれど、こちらを一瞥するぐらいのことはしてくれる彼を。
 私は起き上がって、彼の持ってきた携帯食料を受け取る。味気無い食べ物でも、腹を満たせるものを持ってきてくれるだけありがたい。自分のことには無頓着なのに、私のことは、たぶん任務だからか、ある程度の面倒を見てくれている。カフカさんがお風呂とかのことに言及して、「“聞いて”」をやるまでは、QOLは低かったけれど、それも短い間の話だった。

「ねえ、刃さん」
「なんだ」
「……私。
 いつかちゃんと、刃さんを、殺しますね」

 刃さんが、私の傍に歩み寄る。
 彼は私に手を伸ばし、途中で止めた。私はよくわからなくて、なんとなく、その手に頬を寄せてみる。
 ぴくりとわずかな震えが伝わって、おかしくて、私は笑った。

まぶたの向こう側

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