冬は、体調の悪くなる季節だ。日照量がどうこうとか、そういう話らしい。ともかく、冬はあんまり好きじゃない。雪が降ると、雪かきという面倒な作業が増えるし。ほんとに元気出ないし。

「ただいま!」
「……おかえり……」

 そんなもんだから、直江の元気な帰宅の挨拶に返す言葉もヨレヨレになる。調子が良い時は、玄関先まで行ってやっても良いな、って思ったんだけど。いや、別に私が直江に駆け寄っていくのが好きとか、そういう話では……あるけど……。この話はやめだ。閑話休題しよう。
 今の私は、重みのある布団を重ねて被ったところから、顔だけ出した状態だったので、直江はそれを見てふっと笑う。調子の悪い自分としては笑いどころじゃないけど、笑いどころであるのは確かだ。

「暑くないのか?」
「あつい……、でも重みがあると落ち着く」
「そういうものか」
「ん……」

 あんまり長台詞を喋りたくなくて、最低限の受け答えで済ませる。素っ気ないのは自分でも分かっていた。案の定、直江は気分を害したのか唇を尖らせる。仕方ないだろ、喋る気力も無いんだ。できることなら、暑かったり呼吸が苦しかったりしたとしても、布団に頭まで潜って、落ちた気分が元に戻るまで安静にしていたい。ただ、直江が居るからそうしないだけだ。
 一応、直江もそのあたりに理解はある、と思う。私の反応の悪さにつまらなさそうにしてはいるけれど、無理強いをしてくることはない。変に励ましてくることも。こういうところのせいで、根は良いやつなんだ、という印象を受けてしまうんだよな。たぶん、教育が良くて、かつ、その教えを素直に受け入れるような純粋さを持ち合わせていたから、こういう風になったんだろう。
 そんなことを考えつつ、布団の中に顔を引っ込ませる。そっと。せめて空気が僅かに入るような空きだけは作っておいて、窒息と酸欠を防ぐ。直江の顔が見えなくなる。

「……名前」
「ん」
「私も入って良いか」
「は?」

 そこへ投げかけられた言葉は、突然のものだった。私は思わず聞き返して、というか、聞き返している最中、既に直江は布団の端をめくっていた。新鮮な空気と冷気がふわっと入ってくる。直江も、己の身体を滑り込ませてくる。あれよあれよと言う間に彼の身体ぜんぶが布団の中にやってきて、私の身体に引っ付いた。

「……なんだよ」
「1人の方が良い時もあるのだろうが、抱き締めてやった方が良いと判断した」
「は」
「わざわざ私の目につくところに居たのだ、そういうことだろう」

 直江の言葉に閉口する。視界の閉ざされた真っ暗闇で、笑みをこぼす音が聞こえた。直江の身体がもぞっと動いて、私の背に腕を回してくる。反対の腕も無理矢理私の頭の下に捻じ込まれて、腕枕の体勢を取られた。そうして、抱き寄せられる。熱の篭る布団の中で、直江の体温がこんなにも傍にある。暑い。このままじゃ、触れ合っているところが火傷してしまうんじゃないか、と馬鹿なことを考えた。
 でも、文句を言おうとした口が、動かない。反面、私の腕は勝手に動いて、彼の背中にぎゅうっとまわる。直江の手のひらが、私の髪を「よしよし」と撫でた。

「…………」
「こうしていれば、心細くはないか」
「……ん」
「それなら良かった」

 高温の息が、閉鎖空間に放たれる。直江が嬉しそうにすると、私まで嬉しくなってくる。それでいて、逆に腹立たしくもなるのは、私が本当にあまのじゃくである証拠だった。
 あまのじゃくの口からは、別に、と、素直じゃない言葉が飛び出してくる。

「……何かに抱きつくと、わりと落ち着くものだから。クッションとか、ぬいぐるみとか」
「では、私とそれらではどちらが落ち着く?」
「…………知らない」

 でも、直江はそれさえ簡単に捻り潰して、けらけら笑った。むかつく。何を言っても、直江には勝てる気がしない。その勝てる気がしないのが、本当に腹が立つし、本当に、……案外、胸がぎゅうっとなる。
 視界は相変わらず真っ暗だけど、直江の体温を頼りにして、彼の胸に擦り寄る。直江はやっぱり嬉しそうに笑い声をあげながら、私の髪を撫で続けた。

あまい熱でおぼれさせたい

title by 金星 181112