前触れなく、肌に触れる空気が冷たくなる。
 肌寒い、というのがぴったりくるそれには覚えがあって、眉が寄った。
 これが何を意味しているのかはもうよく知っている。この不快な感覚を取り払うには何が必要かということも。

「なおえ」
「うん?」

 寝転がっていた布団から身を起こし、持っていたスマホを遠くにやる。立ち上がって、ソファでテレビを観ていた恋人の方に寄った。
 不思議そうに視線をよこした直江の横に座り、こっそり彼を窺う。私の言葉を待つ優しい目。じわ、と胸の奥に広がる滲みは、あまく、ぬるかった。
 恥ずかしいことを伝えるのは、勇気が要る。心の準備に時間がかかって、唇を閉ざす。
 その間、直江も何も言わずに優しい目で私を見ている。彼が私の言いたいことを察してしまっているのかは分からない。でも、もしそうだとしたら黙って私を待ってくれていることになるし、そうでなくても、やっぱり私の頑張りたい気持ちを汲んでくれていることになる。直江は言葉を遮ることさえあるくせに、こういうときだけ妙に優しかった。
 だから、滲みも私の心を侵食して、つられるように口を開く。

「あいして」

 短いけれど難しい4文字。それを聞き届けた直江は、ちょっとだけ目を見開く。次には弧を描かせ、微笑んだ。

「では」

 色んな言葉を言外に含ませて、直江は私の身体を持ち上げた。
 彼は難なく私を布団に横たえると、その上に覆いかぶさってくる。心地良い重みが胴に乗ったのを、視線を逸らしながら感じていた。

「なおえ」
「どうした?」
「……やさしくして」
「勿論だ」

 笑みをめいっぱい含んだ声と唇が頬に降ってくる。
 直江の手が前髪をそっと避けた。それだけで胸がぎゅうっと詰まるから、彼の目だけは絶対に直視しない。手だけでこんなに苦しくなってしまうのに、目なんて見てしまったらきっと私は泣いてしまう。
 私の「愛して」に応えてくれるときの彼の目が、どんなに優しい色をしているか、私はもう知っていた。

きみとこうするのが夢だった

title by 金星 170423