ろくでなくてもいいよ

 今日のネサフは真剣だな。ゲームをする横目で窺った名前先生の様子に、そんなことを考える。名前先生がス魔ホに注ぐ目は真っ直ぐで、時折手を止めては視線を宙にやって考える仕草を見せたり、口元に手をやって悩みこんだりする。
 ソシャゲ関係だろうか、もしくはゲームかアニメ。それにしてはちょっと照れも見えるよな。
 観察してしまうのは、教師として、対人でもゲームをする身としての癖だ。相手が愛しい悪魔ならば、なおのこと、予測してしまいたくなる。推測通りの思考や行動をされたら自分の勝ち、予想外なら面白い。
 一頻り見守って、キリのいいところでゲームを中断する。わかりやすく名前先生の方へ顔を向けると、名前先生は少しだけ身体をびくつかせた後、顔を右往左往させた。
 何か話したいことがある、でもちょっと照れくさい。そんな感じ。
 そのわかりやすさが、気を抜いたオフには心地良い。頭を使いまくった探り合いも好きだけれど、それを休める時間は当然欲しいのだ。
 見つめる俺に、促されていることを悟ったのか。名前先生が、おずおずと口を開く。
 
「……私、今、ここの床に布団敷いて寝てるんですけど。
 その、ハンモックを……、買おうかなと……思って……」

 躊躇いがちな語り口に、何も察せないわけがない。心の中で笑みながら、顔には平然とした表情を作った。

「いいですね。便利ですよ、男子寮でも大人気です」
「は、はい。便利だよなと思って。……それで、あの……。
 ふ、ふたつ、かおうかな、と…………」

 最後はもはや消え入りそうな声。遠回しな言い方だ、ただふたつほしいだけなんです、とでも言いたそうな。けれど、その言葉そのままの意味でないのは、真っ赤な顔でわかってしまう。
 流石にこれで誤魔化されると思ってはいないだろうが、そういうていを取り繕わないと話せもしないのだろう。
 こめんどうくさくて、かわいらしくて、今度こそ笑ってしまいそうになる。それでも耐えて、俺は平静を保つ。

「いや、ひとつでいいんじゃないですか?」
「え」

 思わず、といった風に零れた名前先生の声には、絶望が滲んでいた。かわいそうに、表情も愕然としている。
 やっぱり。ほんとうは、俺に見透かされているとわかっていたのだ。そのうえで、俺の同意を待っていた。
 名前先生の頭の中が、容易く想像できてしまう。俺が名前先生の言葉の意図に気付かなかったか、俺が気付いていながら拒んだか、それとも他に理由があるのか。そういう風にぐるぐる考えて、身体を凍らせている。
 俺は笑った。見たい反応が見られた以上、俺も取り繕う必要が無い。

「でっかいの、ひとつにしましょう。身体の大きい悪魔が使うような。
 そうですね、俺と名前先生、ふたりぶんぐらいの」
「──え?」

 真意をそっくり告げれば、名前先生が聞き返してきた。
 この世から見放されたのではないかというほどの顔が、呆然として、それから和らぐ。パニックから戻るのがゆっくりなものだから、変化を微細に見ることができた。その顔が、次第に赤くなって、目を丸くしていくのまでも。
 俯いて手で顔を隠そうとするのを、俺も片手で制す。留められて所在なくなった手をもぞもぞさせて、名前先生はそうっと俺の顔を窺ってくる。
 空いている方の自分の手で、ぴ、と人差し指を立てた。
 
「揺れにも強いやつがいいと思います」
「? ……ッ!? お、オリアス先生のばか!」

 文字通り飛び上がった名前先生が、床に転げる。俺も思い切り声を上げて笑った。
 まったく、ばかとは心外だ。あとで、名案だったでしょう、と言ってやろう。
 決意しながら、名前先生を抱き起こす。
 まずは、ス魔ホで開きっぱなしのネットショップで、俺たちの寝床を見繕おう。



220624