後日談01
「いやー、まさかくっつくとはなあ」
「あはは」
「え、ええと」
「萎縮すんなって、文鴦。名前も笑ってんだろ」
はい、と文鴦殿が大きな身体でおろおろするのをやめてみせた。その動作に、司馬昭殿が肩を竦めて笑う。根っこから生真面目な文鴦殿の背中を、私もぽんぽんと叩いてやった。
晴れて文鴦殿と恋仲になったことを司馬昭殿に伝えたところ、返ってきたのが先の反応だ。もっともな反応だと思う。私だって、最初の頃は文鴦殿のことをていの良い拠り所にしていたのだ。
それがこうなったのもひとえに彼の人柄によるのだから、彼の実直さは敬愛せずにいられない。
ずいぶん空と近いところにある文鴦殿の顔を見上げると、彼からの視線も降りてくる。ついでに司馬昭殿も私たちふたりをじいっと見て、口を開いた。
「あの場所さあ」
どこを意味しているのか言われずとも分かってしまう言葉に、彼の方へ意識を向ける。
司馬昭殿は、自由に吹き抜ける風のようないつもの調子で、
「存在をもっと広めるべきだと思うんだよな。憩いの場があれば、訓練に入る熱もあるだろ。サボり場にする奴らも居るだろうが」
付け足された部分に、思わず笑った。
「私たちみたいに?」
「俺たちみたいに」
司馬昭殿が頷く。文鴦殿が戸惑いまじりに身じろいだ気配が、横から伝わってきた。何を言っているのか分からないというよりか、私たちが自虐している姿を見ての反射的なものだろう。善良で愚かな人間というのは大抵、他人の自己否定を無条件に否定しようとする。でも文鴦殿は善良であれど愚かではないから、何も言わずに私たちを見守っていた。その瞳の奥に、きっと、私たちと同じように、あの木陰の情景を貼り付けて。
「あそこは、俺たちの逃げる場所だった。傷を舐め合うための、ただの子供の遊び場だった。でも、もうその必要もないだろう」
固く揺らがない声は、聞き慣れないものだった。けれど、それはまさしく今の司馬昭殿の声に違いなくて、そして、かつての私が聞いたら耳を塞ぎたがったはずのもの。
今の私は隣の文鴦殿の存在を感じながら、そうだね、と首肯するだけだ。
「私たちにはもう要らない」
文鴦殿の手を、そっと取る。彼が俊敏な動きで頭を動かした。驚かせてしまったことへの小さなばつの悪さと、驚いた文鴦殿のかわいらしさに噴き出しつつ、繋いだ手を司馬昭殿に見せつけてみせる。彼はやれやれ参ったといった様子で両手に腰を当てた。自分だって、王元姫殿を心の支えにしているくせに。それがまたおかしくて肩を震わせた。
そんな私を見る司馬昭殿の笑みは、とらえどころのないもののようでいて、どこか優しい。こんなにも感情のとらえやすい姿を見せる司馬昭殿を、どれだけの人間が知っているのだろう。そう考えると、もしかすると、私も片足ぶんくらいは、人の心を開かせる誰かさんみたいになれているのかもしれなかった。