04
ベオウルフが訓練用エネミーを無力化していく光景を、ずっと見ていた。
その剣に迷いはなく、拳は本能に忠実なものとして振るわれる。
「名前さん、随分熱心に見ているじゃないか」
「ダ・ヴィンチさん」
「ちゃん」
「……ダ・ヴィンチちゃん」
「よし、それで良い」
模擬戦闘の様子を映すモニターから横に顔を向けると、いつの間にかダ・ヴィンチさんがやって来ていた。呼び名をわざわざ訂正して、彼はうんうん、と頷く。
青い瞳から視線を外したくなる気持ちを抑え込みながら、しっかりと見返した。
私は、この天才が苦手だ。
「その熱い視線、ベオウルフの雄姿に見惚れていると見た」
「……」
訂正する気もおきず、無言を貫き通す。ただ視線で何の用か言葉を促せば、ダ・ヴィンチさんは大仰に肩を竦めた。
「様子を見に来ただけさ。マスターのサポートはしすぎるに越したことはないからね」
「過保護です」
「はは、こちらの都合だと思って見逃してくれ」
明るく笑われる。底の見えない箱を覗かされているような気持ちになった。彼は善存在だけれど、それが私にとって善というわけでもない。要は相性が悪いのだ。
モニターに視線を戻す。竜を倒し切ってしまったベオウルフが、カメラ越しに私を見ていた。終了したなら帰ってくるように告げたところで、ダ・ヴィンチさんが去っていく。
突然来てすぐに去った、一体何がしたかったのか分からぬ彼と入れ替わるように、ベオウルフが戻って来た。
「相変わらず良い趣味してんな」
「好きに言って」
ドラゴンが嫌いだというのと倒せるかどうかは別問題だろうに。どうせ軽口だとは分かっているが、適当に相手をした。ベオウルフはなにか拍子抜けしたような、意外そうな、よく分からない目で私を見ている。
軽く睨むと、ベオウルフは表情を元に戻した。特に何も言う気はないらしい。
が、思い出したように、
「そういえばお前、無謀な挑戦をしてるみたいだが」
「だから何」
「いいや」
どこで知ったのだ。
大方、先ほどの私のようにモニター越しに見ていたのだろうが。
仕方ないな、と言いたげなベオウルフに、眉を顰める。
先の天才の名残もあるのか、わずかに腹が立った。
竜を倒せるやつが、私が竜を倒そうとすることに、文句をつけないでほしい。
──私が倒せない竜を、ベオウルフはいとも簡単に捩じ伏せてみせる。圧倒的な力の差があるのだと、私に突き付けてくる。お前は自分よりも下の存在なのだと、私に見せ付けてくる。
それが、いやだった。
私が今まで召喚したサーヴァントは、どちらかと言えば戦いには不向きな方の者が多かった。作家、暗殺者、本人よりも宝具が優れている者など。
だから、つまり、恥を忍んで認めるならば、私は動転しているのだ。
こんなに強い存在がすぐ傍に来るのは、初めてだったから。
「これから戦いも厳しくなるはず。弱者は不必要」
「俺はサーヴァントだ。俺に任せてくれて良いんだぜ」
「──私だって魔術師なんだけど」
人間が戦闘兵器である英霊に対抗するのはおかしいのかもしれない。しかし英霊と渡り合える魔術師はこの世に存在する。
大体、ベオウルフには虚弱な小娘に見えても、元はと言えば竜を倒せること自体がおかしいのであって、……いいや、それは竜に挑んだ私が言うことではない。言ってはいけない。思考から投げ捨てる。忘却へ。
その思考整理と一緒に踵を返す。訓練後はマイルームに戻る予定だったのだ。食堂でごはんの時間にするにはまだ時間が早い。
私が歩き出すと、後ろからベオウルフが着いて来た。彼には訓練後好きなようにして良いと言ったから、本人も行くところがあるのだろう。何も言わず歩を進める。
その足音に、低い声が混ざった。
「ああいう無謀な挑戦、俺は好きだがね」
一瞬、歩調が乱れた。
すぐに持ち直す。首だけで振り返り、ありがとう、とだけ言って、すぐに元の方向を向いた。
歩きながら反省する。こいつに心を乱されることなんて愚かなことだと。気を付けなければ。どうせ、サーヴァントは魔術師の戦闘兵器なのだから。
優先すべき、やるべきことは沢山あるのだ。