ex04
私と刃さんの関係は、他人からは「恋人」に見えるらしい。まあそうかな、と思う。私たちはこの関係に名前を付けたことはないけれど、手を繋いだり抱き合ったり、やることやったりしてるし。そういう、世間で言う「恋人」っぽいことは、大体。
かと言って、私たち自ら「恋人」と言うことは無いと思うけれど。
だって、私たちの関係は、「殺す」と「殺される」、もっと言うなら「心中」を目的にした仲だ。「恋人」という枠に収めるには、その言葉が社会通念持っているきらきらしいイメージにそぐわない。もっとも、「恋人」という枠にわざわざ入りたいわけでもないけれど。
セーフハウスの簡素な寝台の上、傷だらけの身体を晒して眠る刃さんを見る。いくら私の前だといえど、すやすや寝てしまうなんて、とは思う。でも、たぶん、殺気を感じたらすぐに起きるのだろう。あくまで、隣に寝ていたのが私だから、こうなっているだけだ。私になら殺されても構わないし、むしろ、そういう約束なんだから。
とはいえ、「恋人っぽい」行いに、抵抗があるわけではない。どころか、幸せだと思う。
こうやって眠る刃さんの寝顔を眺めたり、その長い髪を指で梳いてみたり。途中眠たそうに瞼を持ち上げられるけれど、彼は再び寝入ってしまう。長く生きるには惰眠の時間も必要なのか、もしくは、私と共に眠ることや触れられることを甘受けしていたいのか。後者だったら、やっぱり、嬉しい。
横たわったまま、刃さんをじっと観察する。そうしていると、まあ、安心して、私にも眠気が来るもので。
刃さんの身体に身を寄せて、ゆっくりと瞼を閉じた。
刃は、ゆっくりと瞼を持ち上げた。自分の身体を散々触ってきた名前は、そのまま寝てしまったらしい。やろうと思えばいくらでも名前を苦しめることのできる大男を前に、よくもまあ呆けた面で眠れるものだと思う。
「……」
名前、と呼びそうになって、刃は口を閉じる。眠りの浅い頃に名を呼べば、起こしてしまうかもしれない。どうせ眠っているのだ、寝かせてやって悪いことはないだろう。何かやらなければならないことがあるとも言っていなかった。
名を呼び損ねた代わりに、その頬に左手で触れる。包帯越しに伝わる熱は穏やかで、このようなあたたかさを感じることになるなどいつ以来なのかと考えてしまう。
なまくらにされてしまうかもしれない。
焦燥感が胸に沸いて、しかし、手を離すことができない。親指で頬を撫でてしまう。
名前との約束では、己が復讐とエリオとの契約を完遂した頃に殺してもらうことになっている。剣が鈍り、復讐の相手を仕留め損ねては、死ぬことのできる日も遠くなる。いくら刃が長命で不死身でも、自分の過ちで、死を待つ時間を増やすことになるのはごめんだ。
やっとの思いで、手をおろす。そうすると今度は、あたたかみを失った手が何かを訴えかけてくる。その衝動をおさめるべく、胸元に寄せられた頭をそっと抱き締める。自分よりも小さな体躯の持つぬくもりが身体中に伝播していくようで、ふっと息を吐く。先ほどようやく手を離したというのに、また自分を惑わせるようなことをしている。その愚かさに自嘲を、できなかった。口元の緩みが、己を愚かだと言い切るための険しさを含んでくれなかった。
──名前という存在は、一体、何を考えている。
抱き締めているのは自分なのに、つい考えてしまう。要するに、すべて、名前のせいにしてしまいたかった。名前が俺を殺すと言ったはずなのに、俺の復讐を妨げるなどどういうことだ、と。
しかし、今の刃には、何を言うこともできない。それも事実だった。