レヴォリューショニスト
王の教室が解放された、数日後。
終末日テスト期間前の、最後の休日。
「イルマ君を来させたの、オリアス先生ですね?」
「俺はヒントをあげただけです」
オリアスか準備室に来てすぐ、名前は問いかけた。彼は少しばかり肩を竦めつつ、テレビの前に陣取る。慣れた様子でゲームを起動する様子に、名前も部屋の奥へ戻る。ソファに座ったオリアスの背後、ベッドに下ろした。
「名前先生、『悪食の指輪』、見たいって言ってましたから」
「……まあ、はい」
背中越しの会話に、名前は表情を難しくする。覚えていてくれたこと、そのための手助けをしてくれていたことは嬉しい。だが、はじめ王の教室を開けることを拒んでいた自分を思うと。勿論、オリアスは、名前が悪食の指輪と王の教室を等価だとしていなかったことも知っていただろうが。
テレビに映し出されたゲーム画面は、タイトル表示のまま動かない。
「俺は、『教師』ですからね」
「……しかも、問題児クラスの生徒が所属する、遊戯師団の顧問」
「はい」
オリアスがくつくつ笑う。その表情は見えなかったけれど、今はオフなのに、スーツ姿のときと似たような顔をしているのだろうな、と思った。
自分のもののことは、できるだけ把握しておきたい。
名前は自分の欲にしたがって、ソファへ移動した。それをオリアスは横目で一瞥し、片手を伸べる。指の甲で頬を撫でられて、名前は目を細めた。
「問題児クラス、面白いでしょう。俺も改めて実感しましたよ」
「……イルマ君のことしか知らないので、なんとも言えませんが」
答える声に、不満げな色が滲んでいた。オリアスが、つい、といった風に笑みを零す。
「やっぱり、ちょっと拗ねてますね」
「何がですか」
「俺が『負かされた』こと」
「…………」
名前は押し黙った。肯定するのはプライドが許さず、否定するのは自分の欲を否定するのと同じだった。
いわゆる図星。
名前は、オリアスを、自分のものだと思っている。疑いようもなく、自分のものだと。
そのオリアスが「負かされた」というのは、たとえば歴史ある魔具に傷がついたとか、だから一般から見ての価値が下がるだとか、そういう事象に似ていた。ひいては、自分のものが見くびられるといったような。それは、名前の逆鱗にほど近い。
「ゲームのあと、できるだけ早く交渉に行くよう言ったのは正解でした。名前先生に俺が負けたって情報が入ってきたら、意地になりそうでしたから」
「……私は、『教師』ではないので」
「『博物塔管理者』ですからね」
言って、オリアスがまた名前の頬を撫でる。唇を尖らせる名前の、その不機嫌さが深刻ではないことなど、お見通しだとでもいう風に。
そして、そうやって見透かされることが、名前も嫌ではなかった。生きる者を「自分のもの」と認識するのはオリアスのみだけれど、その存在が自分をよく知っているというのは、悪い気はしなかった。
自分のものだけれど、物ではない。その違いが生み出すものは、名前にとって新鮮かつ、大きい。
名前が、観念したように目を閉じる。
「……私は、教師ではないですけど」
「はい」
「…………今後、問題児クラスのこと、気にしてみても、いいです」
悔しそうな、捻くれたような言葉。そこに期待と希望を読み取って、オリアスは名前の肩を抱き寄せた。