なんでもないただの金曜日
マルバス先生と名前先生は、そこそこ仲が良くなったらしい。
俺としては、わりと気になってしまうところである。嫉妬というより、興味だ。俺の知らない名前先生がいるのかもしれない、という。
職員寮でマルバス先生を見かけたので、悪魔気のない廊下端まで着いて来てもらう。野次馬は遠慮したかった。
「名前先生と? 拷問や魔具の話をよくしますね」
「あー、まあそうだろうとは思いましたけど……」
問いかけに対する答えは、実に朗らかな声音で発された。予想通りではある。工芸の家系で魔具に詳しいマルバス先生と、魔具を多く所蔵する博物塔管理者の名前先生。興味と専門の分野がよく合うのだ。
マルバス先生は楽しそうに笑っている。俺がわざわざ尋ねたことを面白がる気持ちもあるだろうが、単純に、名前先生との会話が有意義だったのだろう。
口端を上げたまま、彼は続ける。
「拷問魔具の試し心地も教えてくれるので、一意見としてありがたいです」
「──えっ?」
なんかすごいこと言われた気がするぞ。思わず聞き返すと、マルバス先生は首を傾げた。
「あれ、オリアス先生、ご存知なかったですか? 名前先生、バビルス生徒だったときから拷問を一通り受けてみてるんだそうですよ。保険医の先生付きで、後遺症の残らない範囲で」
「……一応、なんですけど。保険医の先生がいなくても後遺症にはならなかっただろうってのじゃなくて、保険医の先生を傍において、すぐ治療を受けられれば後遺症が残らないようなレベル、って意味ですよね?」
「はい。いやあ、勉強熱心ですよね」
ほのぼの笑うマルバス先生だが、こればかりは、うわあ、と思う。今更拷問に怯えるわけではない。ただ、普段のテンションと地続きでいられるあたりが凄い。
名前先生も名前先生だ。博物塔管理者になるため、情報漏洩を避けられるよう拷問慣れすることを望むか否かと言われたら、絶対にやるだろう、と予想はできる。とはいえ、実際にそうだと突き付けられると慄いてしまう。
俺の知らない名前先生を知ることはできたものの、なかなかヘビーだ。
それほどまでに、名前先生は自分の物を守りたい、大事にしたいのだということは、「大事な者」である俺にとって喜ばしいことではあるのだけれども。