まるで宝箱みたいなひと
「『
呟かれた声に、俺は顔を上げた。ゲームをポーズ画面にしつつ、背後のベッドに寝転がっている名前先生へ振り向いた。その手にはス魔ホがある。
「俺の能力が、どうかしたんですか?」
使ってほしいんですか、とは問わなかった。欲しいものがあったとして、それを手に入れる過程で他者の力は借りない。名前先生はそういう悪魔で、そういう欲の持ち主だからだ。以前、茶化しながら「占星」の使用を尋ねてみたときにも、断固として拒否された。
だから、名前先生がこちらを向いて、口を開いたとき、驚いた。
「私に幸運が舞い込むようにしてくれたらどうなるのか、ちょっと興味があります」
その声色は平静と変わらない。
──珍しいこともあるもんだ。
考えながら、ベッドに寄り掛かる。
「そりゃあ、名前先生に使うこともできますけど。わざわざ運を上げて、何かあるんですか?」
「何か、と言うより」
名前先生は、そこで言葉を切った。勿体ぶった言い方をしているな、と気付く。名前先生がこういう話し方をするときは、大抵、俺を照れさせてみようだとかなんだとか、悪戯心を持ってのものだ。疑問に感じるだけのふりをしながら、心の中では身構えておく。
こちらを見る視線が、一瞬彷徨って、そして戻ってくる。照れと、覚悟か矜持。
念のため、横目でゲームをセーブしておく。このあとどうなるか、俺がどうしたくなるか、自分でもわからないので。名前先生、ベッドという名のまな板の上だし。
「私、思ったんですよ」
「何を?」
「オリアス先生と出会えたことと、一緒に居られることが、私のラッキーでハッピーなんです。それ以上の幸運ってどんなのが舞い込んでくるんだろうと」
「…………」
仰々しい台詞じみた、わざとらしい言葉。準備された口説き文句。
俺と出会えて一緒に居られてハッピーなのだとしても、「占星」による幸運はまた別種だ。長期的なものというより、短期的なものというか。たまたまアイスの当たりを引いたとか、たまたまレアアイテムがドロップしたとか。そして、俺の幸運にカバーできないことはあっても、カバーできる部分の幸運は、俺を裏切らない。
それを解っていない名前先生ではないだろう。けれど、俺を動揺させたくて、あえて度外視している。
単純な言葉遊びだ。
ベッドに手を突いて、マットレスの上へ座り直す。見下ろす先の表情は、羞恥と得意げな感情とで半分半分。
バカだなあ。それで俺をやり込めたつもりだなんて。
「名前先生に、俺の能力は要らないでしょう」
「どうしてです?」
にやついた目。その顔の方へ、上体を倒した。
唇が触れ合う。
「……俺と出会って、一緒に居られるのがラッキーでハッピーだとして。俺とこういうことしたら、もっとハッピーなんじゃないですか」
「……へ、え、あ、う」
「あとはまあ、俺と一緒にラッキーなことが起こったら、それも名前先生にはハッピーですよね。思い出が増えるっていうんですか? もしくは、まあ、俺と居るから尚更嬉しい、っていうやつで」
「う、え、う……」
こっぱずかしいことを言うのは柄ではなくて、些か照れてしまう。それでも、攻勢の手は緩めなかった。自分が上だと信じる顔を崩すのに、手を抜いてなんかいられない。
呻く名前先生を視線で縫い留めながら、身体全部をベッドの上に乗り上げる。ベッドが軋んで、名前先生が小さく悲鳴を上げた。今から何が起こるのか、わかったらしい。奇遇である、俺も、俺が何をするのかわかったところだ。
「よかったですね、名前先生」
意趣返しに笑顔を作る。名前先生の喉がひゅうっと鳴った。